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横浜地方裁判所 昭和33年(ワ)883号 判決

原告 株式会社日本相互銀行

被告 佐々木秀治

補助参加人 株式会社静岡相互銀行

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告は「横浜市南区上大岡町字木の宮下二二五番地所在家屋番号一六八番の二木造亜鉛葺二階家店舗一棟建坪三一坪四勺外二階二七坪二合二勺につき取壊されて存在しないことを原因とする滅失登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

被告は昭和二三年六月二日保存登記に係る横浜市南区上大岡町字木の宮下二二五番地家屋番号一六八番の二木造亜鉛葺平家店舗建坪一六坪九合二勺を所有していたが同二八年中にこれを全部取壊し同所に木造亜鉛葺二階家店舗一棟建坪三二坪四勺外二階二七坪二合二勺を新築し、昭和二八年一一月三〇日右家屋につき家屋番号七一一番の保存登記をした上右家屋につき、原告のため昭和二九年一月一六日同日付根抵当権設定契約に基き債権極度額を一三〇万円とする根抵当権設定登記を了した。一方被告は家屋番号一六八番の二の家屋が滅失したのにかかわらずその旨の登記をせず、昭和二九年七月一日登記簿上の右家屋の構造坪数を請求の趣旨記載のとおりとする変更登記をした上右変更登記に係る建物につき昭和三〇年三月二五日被告補助参加人のため昭和三〇年三月二四日付根抵当権設定契約に基き債権極度額を三〇〇万円とする根抵当設定登記を了した。

そして、原告は昭和三〇年五月一二日右抵当権に基き競売を申立て(昭和三〇年(ケ)第一九二号)同月一六日競売手続開始決定をえ、被告補助参加人も競売を申立て(昭和三〇年(ケ)第三二八号)同年八月一一日その開始決定をえた。しかしながら家屋は前記の如く家屋番号七一一番の家屋一つしかないので競売手続は一時進行を停止している。右は前記変更登記に係る家屋(家屋番号一六八番の二)が既に取壊されて存在しないのに登記のみ存し、そのため家屋番号七一一番の家屋につき二重登記あるが如き観を呈し原告の権利の行使を妨げているから右家屋番号一六八番の二の登記の抹消を求めるため本訴請求に及んだと述べ、立証として甲第一、第二号証を提出した。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告の主張事実はすべて認めると述べ、競売手続は何等妨げられるものではないから原告の本訴請求は失当であると附陳し、甲号各証の成立を認めた。

理由

被告が横浜市南区上大岡町字木の宮下二二五番地に家屋番号一六八番の二木造亜鉛葺平家建店舗一棟建坪一六坪九合二勺を所有し昭和二三年六月二日その旨の保存登記をしていたが昭和二八年中右家屋全部を取り壊わし別個に同所同番地に家屋番号七一一番木造亜鉛葺二階家店舗建坪三二坪四勺外二階二七坪二合二勺を新築し同年一一月三〇日その旨の保存登記を了した上、右新築家屋につき原告のため昭和二九年一月一六日同日附根抵当権設定契約に基き債権極度額を一三〇万円とする根抵当権設定登記をなしたこと、被告が取り壊わし家屋について滅失登記の手続をなさず昭和二九年七月一日家屋番号一六八番の二の家屋について構造坪数を前記新築家屋と同一とする変更登記をした上、右家屋につき被告補助参加人のため昭和三〇年三月二四日附根抵当権設定契約に基き債権極度額を三〇〇万円とする根抵当権設定登記をしたことは当事者間に争がない。

そして既存家屋を取り壊わして新に別個の家屋を新築した者が新築家屋について保存登記をしたときは取り壊わし家屋の登記名義人として遅滞なく滅失登記の申請をすべきであり、被告が前記のように滅失家屋につき構造坪数の変更登記をしても、右登記の効力を認め難く従つてまた右変更登記にかかる家屋につき被告補助参加人のためになされた前記根抵当権設定登記も無効というの外ないものと考えられる。しかしながら右の変更登記にかかる登記が存しても、これがため前記新築家屋につき根抵当権者である原告の権利行使を妨げるものではないと解せられるから、被告が原告主張の登記につき自ら滅失登記手続をなすは格別原告に対し右手続をなすべき義務を負うものとはいえない。

よつて原告の本訴請求はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大場茂行 高井清次 惣脇春雄)

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